イスラム教徒の子供と音楽・図工の授業―文化的な摩擦の背後にある意外な理由とは?
〈「ミニスカへそ出しファッションのときは痴漢も多かった」イスラムの女性たちが「美しい髪を隠す」納得理由【写真あり】〉から続く
日本で図工や音楽の授業に参加できないイスラム教徒の子供たちがいるのはなぜか? その理由を自らもイスラムの教えを実践し、現在はパリでイスラム教徒の文化を広める森田ルクレール優子氏の新刊『イスラムと仲よくなれる本』(秀和システム)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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音楽や図工ができない事情じつは、音楽や図工(美術)の授業を受けないムスリムの子もいます。もちろん、授業を受けないからといって、決して日本の音楽や図工を否定しているわけではありませんので、そこは誤解しないでくださいね。
では、なぜ音楽や図工をやらないのでしょうか?
まず図工に対しては、その理由として、イスラムでは神様アッラーの絵を描いたり、像を彫ったりすることは禁止されているから、というものがあります。
絵を描いたり像をつくったりすると、やがて神様の絵を描いたり、像を彫ったりするようになるので、そのドアを開かせないために禁止しているのです。
では、音楽はなぜでしょう。
「イスラムの国々にだって、昔から音楽はあるよね?」
そう思った子もいるかもしれませんね。たしかに、音楽は昔から根づいています。それなのに、なぜ音楽の授業を受けないのでしょうか?
じつは音楽は、人の脳を酔わせることができ、人をまちがった方向に持っていくことができるからです。
「え! 脳を酔わす? まちがった方向に持っていく?」と、頭の中はクエスチョンマークだらけではないでしょうか?
これを初めて知った人は、大変おどろくと思います。私もそうでした。私は、ムスリマになる前は音楽が大好きで、「自分の人生は音楽だ!」「音楽以外は何もない!」と思っていたほど、音楽にどっぷり浸かっていた人間でした。
音楽が人を酔わす、人をまちがった方向へ持っていくとは、微塵も思っていなかったのです。
でも、知ってから気づきました。当時の私が、まさにそれだったと。
イスラムでは、酔わせるものは禁止なので、人や国によってちがいますが、飲酒やギャンブルも原則できません。
そして音楽は、お酒やギャンブルのように、人の脳を酔わせることができます。
極端な例ですが、音楽であまりに熱狂しすぎて、失神した人や亡くなった人もいます。逆に、悲しいときに音楽を聞いて勇気づけられた、はげまされたということもありますよね。「この音楽があったおかげで、自分は気分が変わった! 心が軽くなった!」という人もいるでしょう。
このように音楽は、お酒のように人を酔わせることができてしまうのです。
音楽を聞いているときはお酒を飲んでいるときと同じように、本人が意図しない考えや行動へと、誘導されてしまうおそれがあるのです。
イスラムが音楽を流すときちなみにイスラムでは、音楽を流してもいいときがあります。
たとえば、結婚式などのお祝いのときにタイコを叩いたり歌を歌ったりするのは、楽しむ上でいいのです。
また、音楽をまったく聞かず生活にも入ってこさせないムスリムがいる一方で、たまには聞くというムスリムもいますし、よく聞くムスリムもいます。人それぞれなので、音楽の授業を受けている子だっているでしょう。
最後に、誤解してほしくないので念をおさせてください。
図工をやらない、音楽も聞かないムスリムの子であっても、決して図工や音楽の授業に反対しているわけでもないし、ましてや「そんな授業は廃止しろ」と思っているわけではありません。
ここはイスラムの国々ではなく、日本なのですから。日本にいるムスリムたちは、ちゃんと日本について理解している、ということをわすれないでください。

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